宮沢賢治はまじめな人だと思う。彼の作品はいつも、まじめであることの大切さを私たちに再認識させてくれる。 「銀河鉄道の夜」の中で、ぼくが好きな行(くだり)はこれだ。
「おっかさんはぼくをゆるして下さるだろうか。」(省略) 「ぼくはおっかさんが、ほんとうに幸になるなら、どんなことでもする。けれどもいったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なんだろう。」(省略) 「ぼくは分からない。けれども、誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸なんだねえ。だから、おっかさんは、ぼくをゆるして下さると思う。」(『新編銀河鉄道の夜』新潮文庫)
このカムパネルラの自問自答の言葉は美しい。自分の行動を自省しながら、「幸」の意味をかみしめている。
カムパネルラは主人公ジョバンニの親しい友達だが、そのジョバンニをいじめるザネリを助ける。ザネリは小説の中では明らかな悪役で意地の悪い人間だが、そのザネリを川に飛び込み自分自身の命と引き換えに救う。このストーリーはこの世の不条理を端的に表している。
たんなる勧善懲悪・因果応報では片付かない、現実の世界の難しさと正義の真実の意味を、この物語はやさしい言葉で説明している。
読んでみて、カムパネルラは幸せだなあと、ぼくもそう感じる。死んでしまっても、カムパネルラは本当に幸せだと確信する。「ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸なんだねえ。」 「おっかさんも」必ず「ゆるして下さる」だろう。そう、カムパネルラの「おっかさん」も幸せなのだ。
「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら峠の上り下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから」(同じく『新編銀河鉄道の夜』新潮文庫)
「燈台守」のこの言葉は、登場人物同様、闇を生きる人々のともし火である。
幸せとは何か? この当たり前の質問に、宮沢賢治は文学を使い、まじめにやさしく答えている。 「ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸なんだねえ。」
「ほんとうにいいこと」とは、難しいようでけっして難しくない。 それはカムパネルラの現実の行動であり、「家庭教師」の勇敢な判断であり、蠍座の「蠍」の最期の懺悔である。
まじめでありたい、そう願う今日一日です。
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